日本の生産性を下げている「多重下請けによる中抜き構造」

個人事業主

こんにちは。
本日は「多重下請けによる中抜き構造」というテーマでお話しします。

巷でも一時期、多重下請けがきっかけでトラブルが起きたり、下請け法や独占禁止法に引っかかったなど、ニュースで取り沙汰されて話題になりましたので、そういう問題があるということは聞いたことはある方も多いと思います。

私の場合はずっとIT業界にいますので、身近な話として同業者から実例も聞いたりして、よくよく認識していました。
しかし、身を持って体感したのは独立してフリーランスになってからでした。
というのも、会社員時代はずっと業種は違えど元請の会社にいたため、受注側の立場になることがそもそもなかったためです。

フリーランスになるとまずは案件を探すわけですが、一般的にはインターネット上の案件紹介をしているWebサイト(ITPRO PARTNERSCrowdWorksレバテックなど)で案件を探すことになります。
目ぼしい案件が見つかったら応募するわけですが、ここで元請会社との間にSES企業が入ることが多いです。
大体の場合、大手の元請会社であれば専属のSES企業が決まっていて、案件に応じて人材が必要な場合はSES企業に打診すると思います。
それ自体は、元請会社側のIT人材の体制に応じて、必要な人材を外注しているというだけで何も問題にはなりませんよね。

問題なのはここからです。
どういうわけか世の中の多くの案件で元請会社〜最終受注者の間に何社も挟まっている多重下請け構造が存在しているのです。
特に単価の低い案件ほどその傾向が顕著で、そういう場合は大概、中小企業(ほぼ小規模企業)が何社も間に入っています。
これにより、以下のような問題が発生します。

  1. 同じレベルの仕事でも下請けの階層によって単価が激減してしまう
  2. 何もしないにコストだけ発生して社会的な無駄が生じてしまう
  3. 仕事の品質に悪影響が生じてしまう

それでは、1つずつ深掘りしていきましょう。

1. 同じレベルの仕事でも下請けの階層によって単価が激減してしまう

多重下請けの場合、間に入っている各企業が管理費や紹介料という名目で中間マージンを抜くことになります。
すると、元請会社が月単価100万円で発注したとしても、最終的な受注者が受け取るときには20~30万円になってしまうという笑えない話になったりするのです。

実際、私も過去に元請までの間に入っている企業が精算が遅く、メールのレスポンスも遅いという感じであまりに仕事ができなかったので、一次受けの会社の交渉して商流変更して間の会社を省いたことがあるのですが、仕事内容は変わっていないにも関わらず、それだけで10万円ほど単価が上がりました。

2. 何もしないにコストだけ発生して社会的な無駄が生じてしまう

商流変更して分かったことは、やることは何も変わらず、精算の相手が一次受けの会社に変わっただけで何一つ支障はなく、文字通り意味のないコストセンターでしかなかったということです。

もちろん、紹介料という観点はありますので、数ヶ月はクオリティが低いと思いながらも我慢はしましたが、現場との各種調整や交渉で出てくるわけでもなく、昨年で言えばインボイス制度開始に伴うフォローがあるわけでもない(それどころか制度のことすらもろくに調べていない)という状況でしたので、永続的に契約は続けられないと思いました。

そもそも論として、私が体験したケースに限らず、SESでエンジニアを現場に派遣する場合、休暇調整も業務に関するやり取りも全て現場サイド(元請、1次受け)としますし、何なら価格交渉もフリーランスの場合は直接することもままあるので、自社できちんと人材教育をして派遣しているような企業でなければ、企業として価値を生み出しているとは言えず、はっきり言って存在価値が無いと思います。

そして、そういう価値を生み出さない企業が増えるほど、人材の無駄な消費が増えていき、それこそが日本の生産性が低い(主要先進7カ国最下位)と指摘される大きな原因だと私は考えています。

実際、少し古いデータではありますが国別の派遣事業者数というデータを見ると、日本は明らかに数が多い結果となっており、人口比も考慮すると異常とも思える数となっています。

独立行政法人 労働政策研究・研修機構より抜粋

人材派遣業社がこれだけ急速に増えた要因としては、下記2点が主な要因でしょう。

  • 元請会社の多くは、正社員を雇用する際にかかる社会保険料などの負担をかけずに低予算で人材を確保したいため
  • 人材派遣会社は設立にかかる初期投資が比較的高くなく、ランニングコストも営業費と最低限会社としてかかる諸費用だけで、案件さえ確保できれば数ヶ月〜数年単位でほぼコストをかけずにインカムゲインが得られるため

これはまさに利益追求主義が行き過ぎた結果のように思います。
世の中の多くの企業が低予算で人材を買い叩けば、必然的に貧しい人が増え、消費も冷え込んでデフレに向かうことになり、結局は企業の売上や利益も下がってしまうというのに、目先の利益ばかり追い求めてしまうわけですね。

このように既に出来上がってしまっている構造ではありますが、こういうところに割かれている人材が他の事業に回れば、もっと日本の生産性は上がるのではないでしょうか。

3. 仕事の品質に悪影響が生じてしまう

多重下請け構造は品質にも大きな影響を及ぼします。
まず、間に会社が何社も入ると成果物に対する責任の所在がどこにあるのかが非常に曖昧になります。
どこの会社も責任は取りたくないですし、上述のようなマージンだけ取っているような会社なら尚更でしょう。
かといって、成果物の品質を担保するために中間会社が何かしらのチェックプロセスを踏むかというとそんなことも基本ないので、結局は品質は個人の資質に依存するということになります。
受け入れ側がしっかり検修する企業であれば、その時点で修正が入ることになるのでまだ大きな問題にはなりませんが、そこすらザルだった場合は目も当てられないような問題になるケースもあります。

また、中抜きによって単価が下がるということは、応募してくる人材のレベルも基本的には下がるということになるので、必然的に品質は下がります。
同時に、人材レベルが下がるということは手戻りたミスが増えたり、効率も下がるため、納期の観点でも課題が出てきます。
すると、無理して納期に間に合わせるために長時間労働になったりして、さらに品質の低下を招くという負の連鎖が起こるのです。

今回はIT業界をベースにお話しましたが、建築業界などでも類似のケースは見られる話です。
より生産性が向上して、日本がより豊かな国になれるように、まずは問題を多くの方に知っていただいて解決に向かっていくことを願っています。

IT業界に望む未来

個人的には、IT業界で言えばこれくらいシンプルになったらいいなと考えています。

まず、案件を単純に横流ししているだけの利益搾取企業は一律、法律で規制して廃止として、人材を自社でしっかり育成している企業だけが残るようにします。
その上で、フリーランス(個人、法人いずれも含む)のような案件ごとのスポットの外注先にはクラウドソーシングサービス経由で紹介は行い、契約は元請会社と直接契約できるようにして中抜きを無くし、案件紹介料(サービス利用料)として元請会社から案件成約時に運営会社に支払が行われる形です。

こうすれば生産性が無い中抜き企業が淘汰され、その分の人材は別の生産性がある仕事に回せますし、フリーランス側も単価が大幅に上がるので良いことづくめではないでしょうか。

それでは本日はこの辺りで失礼します。

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